はじめに
「体調を崩さないためには何を対策すればいいですか?」
よくいただく質問ですが、実は答えは「何か1つ」ではありません。
体を守る仕組み(免疫)は、たくさんの細胞がチームで動くシステムです。そして、細胞たちが働く“場面”ごとに、必要になる栄養素は変わります。
以前のコラムでは、免疫に関わる代表的な栄養素をご紹介しました。今回は視点を変えて、「体を守る細胞が、どんな場面で、何を使って働いているのか」から、冬に向けた栄養戦略を考えていきます。
体を守る細胞は「3つの場面」で栄養を使う
結論からお伝えします。体を守る細胞が力を発揮するまでには、次の3つの場面があります。
① 増える:数をそろえる
② 戦う:異物を処理する
③ 続ける:長期戦に備える
体を守る仕組みには、ビタミンA・C・D・E・B6・B12・葉酸、亜鉛・鉄・銅・セレンなど、多くの栄養素が関わっています。しかも、それぞれが段階ごとに協力し合って働いていることがわかっています※1。
つまり大切なのは、1つの栄養素を大量に摂ることではなく、場面ごとに必要な栄養素を“そろえておく”ことです。
場面① 増える ― 細胞分裂の材料と「鉄」
異物を見つけると、体を守る細胞は短期間で一気に数を増やします。分裂をくり返すため、新しい細胞をつくる材料が大量に必要になります。
ここで欠かせないのが、ビタミンB6・B12・葉酸、そして細胞づくりを支える亜鉛です。これらは、細胞が新しく生まれるときに必要な栄養素です。
もう1つ見落とされやすいのが「鉄」です。鉄というと貧血のイメージが強いですが、体を守る細胞が増えるときにも使われています。
血液中の鉄が少ない状態をつくった研究では、体を守る細胞の増え方や抗体づくりが鈍くなり、鉄を補うことで反応が改善したことが報告されています(マウス・ブタでの研究)※2。
特に女性は月経で鉄を失いやすく、自覚がないまま不足していることも少なくありません。
場面② 戦う ― 細胞自身を守る「抗酸化」
体を守る細胞は、異物を処理するときに「活性酸素」を“武器”として使います。ところが、この武器は細胞自身も傷つけてしまいます。
そこで必要になるのが、細胞を酸化から守る栄養素です。
特に注目したいのがビタミンEです。ビタミンEは細胞の膜に入り込み、膜を酸化から守ります。65歳以上の健康な方88名を対象にした研究では、ビタミンEを4ヶ月補ったグループで、体を守る細胞(T細胞)の働きを示す指標が改善しました※3。
また、セレンは体内で抗酸化を担う酵素の材料になるミネラルです。ビタミンEとセレンは協力して働くため、どちらか一方ではなく“セット”でそろえることがポイントです。
場面③ 続ける ― 筋肉は「アミノ酸の貯金箱」
体調を崩しかけたときや、忙しさ・ストレスが続くとき、体を守る細胞はたくさんのアミノ酸を使います。食事からの補給が追いつかない分は、筋肉を分解してまかなっています。
筋肉は、体全体のたんぱく質代謝を支える「アミノ酸の貯蔵庫」としての役割を担っているのです※4。
つまり、筋肉が少ないほど“貯金”が少なく、いざというときの余力も小さくなります。トレーニングで筋肉を保つことは、見た目や体力のためだけではありません。冬を元気に過ごすためのコンディションづくりの土台にもなります。
冬に向けた3つの実践ポイント
① 「増える」ための栄養を毎日コツコツ
赤身肉・あさり・卵(鉄・ビタミンB12・亜鉛)、緑の葉物野菜・豆類(葉酸)を意識して取り入れましょう。細胞の材料は、必要になってから慌てて摂っても間に合いません。日々の積み重ねが大切です。
② 「守る」栄養は油と一緒に
ビタミンEはナッツ・アボカド・青魚に、セレンは魚介類・卵に多く含まれます。ビタミンEは脂に溶ける性質(脂溶性)があるため、オイルドレッシングを使ったサラダや炒め物など、脂質を含む食事と一緒に摂ると吸収されやすくなります。
③ 冬こそ「貯金」を減らさない
毎食のたんぱく質に加えて、寒さで活動量が落ちやすい冬もトレーニングを続けましょう。筋肉という貯金箱を守ることが、体の余力につながります。
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⬛ まとめ
✔ 体を守る細胞は「増える・戦う・続ける」の場面ごとに、違う栄養素を使う
✔ 「増える」にはビタミンB6・B12・葉酸・亜鉛と鉄。女性は特に鉄不足に注意
✔ 「戦う」にはビタミンEとセレン。細胞自身を酸化から守る
✔ 「続ける」には筋肉という“アミノ酸の貯金”。たんぱく質とトレーニングで守る
✔ 1つを大量にではなく、必要な栄養素を“そろえておく”ことが冬の備えになる
監修:Dr.NUTRITION 管理栄養士
【参考文献】
※1 Gombart AF, Pierre A, Maggini S. A Review of Micronutrients and the Immune System–Working in Harmony to Reduce the Risk of Infection. Nutrients. 2020;12(1):236. doi:10.3390/nu12010236
※2 Frost JN, et al. Hepcidin-Mediated Hypoferremia Disrupts Immune Responses to Vaccination and Infection. Med (N Y). 2021;2(2):164-179.e12. doi:10.1016/j.medj.2020.10.004
※3 Meydani SN, et al. Vitamin E supplementation and in vivo immune response in healthy elderly subjects. A randomized controlled trial. JAMA. 1997;277(17):1380-1386. doi:10.1001/jama.1997.03540410058031
※4 Wolfe RR. The underappreciated role of muscle in health and disease. Am J Clin Nutr. 2006;84(3):475-482. doi:10.1093/ajcn/84.3.475